2010年11月24日水曜日

第六話 【ポジション:マネージャー】

平成7年1月2日、新年会で新たな目標を掲げた。例によってまた夢物語を
語っていた。

・ハリマオの選手を30人体制にし、ひとり2ポジションをこなす。
・一勝する。
・女子マネージャーを入れる。

高校時代、女子マネージャーは他の部にはあまりいなかったがラグビー部に
はいた。
同期には、(怖かった)大野さん、(ほのぼのとした)日比野さん、(やさ
しい)八巻さんの3人が所属していた。三者三様で中々いいトリオだった。
他校に試合に出かけた時は、何となく鼻が高かった。
気持ちの中ではハリマオは高校時代の再現を目指していたので、当然、女子
マネージャーが欲しかった。

同窓会の折に大至急、彼女たちに声をかけた。名西ラグビー部の事はとって
も懐かしがってくれたが、『今更、マネージャーもないでしょう』との事
だった。当然の反応かもしれない。彼女たちの中では、ラグビーは『いい思
い出』になっていた。

これで諦めないのが当時の僕であった。自分の中では、ラグビーを思い出に
出来なくて、狂ったように燃えていた時期であった。
色々と人選に思いを巡らせた。こちらからお願いするにだから変な人に声を
かけたくなかった。変な人に声をかけて断られたらムチャクチャ腹が立ちそ
うだからである。

そしてたどり着いたのが、中嶋桂子(桂ちゃん)であった。
彼女のことは幼いころから知っているがとても『いい奴』である。
『いい奴』と言うと本人は怒るがもっとも適した表現だと思っている。人柄、
性格、協調性、スポーツ好きと我々にとってはもってこいの人材であった。
彼女に決めた。

当直の夜、誰もいない事務所でひとりで考えていた。
我々にとってはもってこいであるが、肝心なことの答えが見つけられないで
いた。彼女にとってマネージャーをする『意義』がないのである。ず~と考
えたが見つからない。

平成7年1月23日当直の夜、答えを見つけられないまま、彼女に電話をした。
これから訳の分からない話しをするかと思うとドキドキした。電話のコール
している時間が長く感じられ、もう少し考えをまとめてからにしようかと思
い、切ろうとしたら出てしまった。

「あの~、林ですけど…」
突然の電話にびっくりしているようだ。唐突に切り出していた。
「いっしょにラグビーやらない?」
我ながら、もう少し言い方がないのか思った。血が逆流した。次ぎに何と言
えばいいのだ?
『え~~~~』
突然の電話の唐突な話しに彼女は言葉を失っている。状況がつかめないよう
だ。
もっともだ、ムチャを言っているのは分かっている。返事がない。
何かしゃべってくれ~。沈黙が重い。我々とは違い、名西への思い入れもな
いだろうし、スポーツが好きでもラグビーが好きかどうか分からないし、メ
ンバーも小島しか知らないし、おじさんばっかりで女性はいないし…

しかし、この沈黙の間に、あれほど考えても見つからなかった答えが見つか
った。
(彼女もハリマオになればいいんだ。
 ハリマオのマネージャーじゃなくって、彼女自身がハリマオになればいい
 のだ。ポジションが、マネージャーなのだ。)

そう思った瞬間から、雄弁になった。ラグビーのすばらしさ、ハリマオの生
い立ち、メンバーのエピソード、桂ちゃんが向いていること等々、語りまく
った。

そして彼女が言った。
『他にどなたかいらっしゃらないんですか?』
「いない」
『わたしなんかでいいんですか?』
「いい。いいから電話しているの」
『わたし、みなさんを知らないし~』
「メンバーはぼくが保証する。武骨ではあるけれどいい奴ばっかりだよ。変
 な奴はチームに入れないもん。肩身の狭い思いはさせないよ」
電話の向こうでは断る理由を探しているようだった。
『わたしが入って何かあるんですか?』
「ぼくたちは楽しくなる」
『わたしは?』
「15人のすばらしい仲間が出来る」
まだ何か断る理由を探している。釈然としないのだろう。
『わたしマネージャーやったことないですよ』
「ぼくもない」
『何か変だと思いませんか?』
「ぜんぜん。」
『だって~だって~』
「だってじゃないの」
意味不明の会話が続いた。
『ん~、行く時はどうやって行くんですか?』
「迎えに行きます」
『どうして、わたしなの?』
「きみだから誘ってるの」
しばし禅問答のような会話が続き、ようやく
『じゃ~、やるやらないは別にして、今度の練習見に行こうかな』
「やった~」

こうして、初の女性ハリマオが誕生した。




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